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犬連れへんろ*二人と一匹のはなし*

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2007年 09月 18日

「犬連れへんろ」 はじめに ・ 第1話

はじめに

 はなが、我が家にやってきた日のことを思い出してみると、それは、十七年前のこと。今では、もう遠い昔になってしまったような気がしています。でも、何か新しいことが始まった、そんなキラキラした瞬間でした。このお話は、十四年と三ケ月ほど、我が家のひとり娘として一緒に暮らした、愛犬「はな」と私たち夫婦が、四国八十八ケ所めぐりをした珍道中のお話です。
 この八十八ケ所のお寺をめぐって巡礼する人々は「お遍路さん」と呼ばれます。二人と一匹の犬連れへんろ、実は人づきあいが苦手な私たちですが、はなのお蔭で、それはそれはたくさんのすてきな人たちと、出会うことができました。夫婦ふたりだけの旅なら、絶対ありえないことでした。
 そして、はなのお蔭で、「四国へんろ」誌(=のちに「巡礼マガジン」となり、今は休刊中)に、私たちのお遍路記を連載していただくようにもなりました。この連載されたフォト&エッセイ「犬連れ遍路」全十二回も、少し手を加えて、ここにまとめてみます。自分の足で歩いて旅をする充実感、犬とともに過ごす時間のすばらしさ、そして厳しい自然、ふれあいの温かさ、などなど。感じていただければ幸いです。

 今、この平和なひとときを過ごすことができる幸せに感謝しつつ、たくさんのかけがえのない思い出をくれた、今は亡き「はな」に、このお話を捧げます。
すてきな人生の1ページをありがとう。


1.はなちゃん登場!

 「ハスキーの子が生まれたらしいよ、気に入ったのがいたらもらってくるね。」
 そう言って当時勤めていた魚市場に早朝出かけた主人が、お昼過ぎ、ニコニコしながら帰ってきました。そして、シャツの懐ろに入れた手をそっと出すと…、乾物の箱に入れられてやってきたせいか、いりこの匂い漂う、かわいい子犬です! 主人の手のひらに乗ってフニャフニャと動く、このかたまり…うわぁ、これが念願のハスキー犬なのです!「犬連れへんろ」 はじめに ・ 第1話_c0049299_18503334.jpg
 「……」
 …でも、ちょっと待って。じーっと顔を見ると何か変、ちょっと怪しい。
 「ほんとにこれハスキー?」
 「間違いないよ。いりこ屋さんに飼われてた、ハチっていうお母さんハスキーが6匹産んだんだからね。ただ…父親は知らないんだけど…」
ほら、やっぱり! でも、タラッと垂れた両耳をちょっと引っ張って三角にしてみると、ほら、「わー!やっぱりハスキーだ!」きれいなブルーの左目はお母さん譲りのようです。最近ではゴールデンやラブラドール、いやいや今ではチワワやミニチュアダックスフンドに、すっかり人気を奪われてしまいましたが、ちょうどこの頃はハスキーブームの全盛期(みなさん、覚えていますか?「動物のお医者さん」という漫画で大ブレイク、そのお陰で獣医さんになる若い人まで増えたほどでした)。あちらこちらで沢山のハスキー犬を見かけましたよね。そのうちの一匹がこの小犬の母親だったのです。そのハチの子供だから「ナナ」…というか、ちょっとアレンジして、いつも鼻水たれなので、めでたく「はな」と命名! 子どものいない我が家で突然、箱入り娘として育てられる事になりました。
「犬連れへんろ」 はじめに ・ 第1話_c0049299_18515225.jpg  箱入り娘といっても、一番可愛い頃にきちんと正しいしつけをするのが鉄則(人間でもそうですよね)。お蔭さまでよろよろ畳の上を歩く頃にはもう、お手とお座わりをきちんと出来るいい子になっていました。実は、この少し前、信州八ヶ岳に暮らした時期があり、たくさんの猟犬の世話やしつけが主人の仕事でした。それで、犬のしつけはお手のものだったのです。こんな時に、あの山での暮らしが役に立ってくれるとはねぇ。どんな経験でも、やっぱりしておくものねぇ。今にして思えば、その時、たくさんの猟犬と一緒に、まだ、どこでも見たことのなかったシベリアン・ハスキーとアラスカンマラミュートも飼われていました。大きな身体と、その狼のような風貌に、はじめは少し驚いたものの、人なつこくて利口で従順ということがわかり、休日には一緒に八ヶ岳に登ってみたりしたものです。きっとあの頃、もう私たちはハスキーの魅力にとりつかれていたのかも知れませんね…。
「犬連れへんろ」 はじめに ・ 第1話_c0049299_19574100.jpg さてさて、はなと私たちの住まいは、大きな川に面した景色のよいマンション。はじめは郊外の庭付き1戸建てや、他のマンションの購入も考えていたのですが、現在のこのマンションに案内され、この窓からの景色を見た途端、「ここ買います!」とすぐに購入を決めてしまいました。不動産屋さんのチラシ風に言うなら「南東角部屋。眺望抜群。駅から徒歩一〇分!」というところでしょうか。海も山も川も毎日眺められるし、ほんとに気持ちいいんです。
 いつも、窓から見える景色を、飽きもせずに眺めていたはな。一生の間で、はながこの窓辺に座っていた時間は、すごく長かったのではないでしょうか。行き交う車を眺め、散歩をする犬を眺め、飛び立つ飛行機を眺め、あの後ろ姿は、今でも私の目に焼きついています。
 そして、「はな。」と呼ぶと、「なぁに?」という顔をして、いつも静かに振り向いてくれたのでした。(つづく)

by inuzure | 2007-09-18 21:02 | ■連載シリーズ


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