犬連れへんろ*二人と一匹のはなし*

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2014年 12月 17日

第10話 ともに生きる 【カテゴリ 連載シリーズのつづき】

(初代はなと一緒に歩いた四国遍路の旅。そのお話をまとめたのが電子書籍「犬連れへんろ」です。この第10話までは前編に収められています。)

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「ともに生きる」
  四十番札所 観自在寺 → 四十三番札所 明石寺

 今回は、少し前置きが長くなります。
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 2002年GWのへんろ旅は残念ながら、3日間で切り上げてしまいました。はなの具合が悪くなってしまったのです。大好きな松尾峠へ向かう道は、はなを歩かせて、台車は何とか引っぱりあげました。ヨロヨロと歩くはなを見て、本当に年をとってしまったものだなぁ、と思っていましたが、峠から下りて須の川キャンプ場でテント泊している間も、どうも様子が変なのです。異常に水を沢山飲み、その分、異常にたくさんのオシッコをします。そして暑くもないのに、ハーハーと呼吸が速く、目が充血していました。
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キャンプ場で2泊したのですが、はなの様子が変わらないので、急遽九州へ戻ることにしました。何といっても、私たちの遍路の主役ははなで、はなと一緒に歩きたくて始めた遍路なのですからね。肝心の主役が病気では仕方ありません。九州に戻るとすぐ、かかりつけのお医者さんに見せましたが、血液検査をしてビックリ! 何と動物病院の機械では測定不能なほど、血糖値が上がっていたのです。そして下された診断は『糖尿病』…。翌日からインシュリンの注射を打ち続ける日々となりました。素人の私が毎日注射をするので痛かっただろうし、グッタリした様子で注射器を恐がるはなを見て、もう寿命ではないかと私たちはすっかり落ち込んでしまいました。ところが2週間たったある日、突然血糖値が正常値に戻りました。そのため、毎日注射していたインシュリンも段々と減らされ、結局注射はしなくて良くなったのです。そうなると、はなちゃん復活! あれほど辛そうだったのが嘘のように、また元気なお年寄り犬に戻ってくれたのです。
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(ひとまずメデタシメデタシですが…またはなの健康については別の機会にお話ししますね。)
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 さて、そうして無事に夏を迎えることができたのですが、この夏の旅はGWのことがありましたので、これまで以上に、はなに無理をさせないように気をつけて歩きました。まずは車でお四国入り。そして前回もお世話になった須の川キャンプ場で車中一泊です。「これでしばらくクーラーともお別れ…」という思いもあったためか、何回か夜中にエンジンをかけてクーラーをつけてしまいました。こんな事でよく夏の野宿遍路ができると思うのですが、歩き始めると文明を忘れた身体になってしまうのですから、不思議なものですね。
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 出発の朝、「どろぼうよけ」のお守りとして、いつものように納め札を1枚、フロントガラスに貼り付けます。田んぼの虫よけ・豊作祈願からどろぼうよけまで、いろんな所に引っぱり出されますので、お大師さまも大忙しです(笑)。お遍路中は「特に何かをお願いしにまわっているのではないから、強いて言えば天下泰平・家内安全・心身健康かな」などとうそぶいていましたが、しかしてその実態は…日々あらゆる場面で、お大師さまに沢山のお願いごとをしている自分に気づきます。そんな自分に少し反省しながらも、いつも心の中にお大師さんがいて下さるのだ、という心地よさを感じながら、さあ行きましょう。朝、涼しいうちに海沿いの気持ちいい道を歩きます。このあたりは真珠の養殖が盛んで、沢山の作業小屋がならんでいます。歩いているからこそ、その町を支えている産業を肌で感じることもできます。一般的には昔と違って、どこへ行っても同じような街や、お店があり、だんだん地域色が薄れていますが、これもグローバル化の弊害なのでしょうか。でも、お四国の歩き旅では、まだまだ日本らしい懐かしい風景を、沢山目にすることができますので、心が救われるのでしょうね。
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 さて、この日一番の難行苦行は、ちょうどお昼に突入して25分に脱出した『松尾トンネル』。現代のお遍路さんは、昔のお遍路さんと違った意味で、命がけなのだなーという実感です。主人の真似をして、手ぬぐいを鼻と口に巻き、なるべく息を止めて歩きます。はなは私たちより何倍も鼻が敏感なのに、私たちのように息を止めようと思いませんから、思い切り汚い空気を吸ってしまうのでしょうね。「ごめんよ、はな。なるべく急いで抜けるからね」トンネルの中はとにかく煤だらけで、汚い空気が充満して、ボンヤリしています。そしてたった1台の車がトンネルに入った瞬間から、戦車隊が行列でやってきたような、もの凄い音がするのです。
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普通車でも、ものすごい音ですが、トラックとなると、もう歩いていられません。自分たちの身を風圧から守るために、ひとまず立ち止まって、壁ぎわに寄り、通りすぎるのを待たなければいけません。轟音とともに排気ガスを一杯残して、すごいスピードで去って行く車たち。日頃お世話になっているのを承知で言うのですが…「自動車なんか、この世の中から無くなってしまえ!」という気分です。ほんの百五十年前には、誰でも歩いて旅をしていました。裕福な人でも駕籠に乗ったり、馬に乗ったり、とにかく環境を汚したり地球に迷惑をかけることなく移動していたはずです。そういう時代と比べると、何と罪深い私たちの時代でしょうか。道路の成り立ちにしても車優先が度を越しているように思います。歩いたり自転車に乗って旅をしても危険がないような、そんな人間のための道を、日本中に張りめぐらせて作って欲しいと、心から願います。そんな環境行政に対する要望も飛び出してくるお遍路の旅なのです。
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 ようやく夕方4時半、別格霊場の龍光院(りゅうこういん)に到着しました。ちょうどお盆で沢山の人々が訪れていましたが、快く境内にテントをはる許可をいただき、駐車場の隅にテント泊です。暑さでヘロヘロになっていましたが、頑張って小高い丘の上の境内まで台車を押して上がりました。見晴らしも良く、風通しもよく、朝方には少し寒くなってしまった程で、第1日目の宿泊地は大成功でした。おまけに、朝出発しようと準備していると、お寺の奥さんからお接待まで。おかげさまで、とても気持ちよく朝の街に歩き出して行きました。テクテクごろごろ……歩くこと30分、朝早くからいい匂いがして、お腹がグーッとなります。T字路の突き当たりにあるお弁当屋さん「片山」です。まだ準備中でしたが、ひとまず一日の元気のために何か買って食べようと思い、すぐに出来るという幕の内弁当を2つお願いしました。出来たてホカホカ、もうたまりません。「ありがとう。おいくらですか?」と尋ねると、何とお接待です。おつりを多めにくれたりするお接待は経験ありますが、買うつもりでいたのに、お金をとってもらえなかったのは初めてです。朝早くから準備をされ、いそがしく働いておられるのに、このような心づかいをしてくださる、そんな方たちの幸せを心から祈りながら、ありがたくお弁当をもらって歩きました。少し歩いたところにある、踏切横の駐車場で、さーてホカホカのおいしい朝ごはんです。あぁ幸せ! 何だか今日は朝からお接待つづきで申し訳ないくらいです。
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 お昼が近づいてくると暑さも本番になってきました。頭がクラクラしてきたので、41番龍光寺(りゅうこうじ)の下の食堂で、かき氷を食べました。こんな時、沢山食べ過ぎるとお腹をこわすので、二人で1個の注文です。はなも日陰で少し休憩し、水をガブガブ飲んで、しばらく涼みました。そしてひと心地ついてから、42番仏木寺(ぶつもくじ)へ向かいます。
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 田んぼの中の道をずーっと真っ直ぐ歩きます。日陰がないので結構暑さがこたえますが、田んぼの稲がもう収穫間近で、サワサワと気持ちいい音をたて、風にそよいでいます。こんなだだっぴろい景色も普段の生活にはないものなので、何だかスカーンとした気持ちになって来ます。仏木寺が見えてきて、もうすぐ…と思った時、道脇の家から、一人のおばあさんが血相を変えて走り出てきました。何ごとかと思っていると、「ちょっと来て! ここに荷物を置いて!さあ、こっちへこっちへ。犬も一緒に!」と私たちを案内して行きます。戸惑う私たちを、半ば強引に、引っぱるように家の中へ連れて行きました。台所と座敷の間の土間に私たちを案内し、氷の入ったコップに梅サワーをなみなみ入れて渡すと、おばあちゃんは、すぐに忙しそうに台所で何かを作り始めました。
「ちょうどお昼だから、そうめんを食べて行きなさい」
 ゆでたそうめんを庭へ持っていって井戸水で冷やして、その帰りに畑のネギをちぎって来て、また台所で忙しそうに働きます。へんろ道沿いのこの大きなおウチで一人で暮らしている、高田さんのおばあちゃん。私たちを見て、「ありがたい、ありがたい」ととても喜んでくれました。いつも家の前をお遍路さんが通ると、お接待をするのだそうです。出来上がったそうめんをお椀に入れて、私たちに食べさせ、その間、「ちょっとお杖を借りますよ」と言って、主人の金剛杖を手にとり、その杖で肩をこすったり腰をこすったり…。次は私の杖で膝をこすって、小さな声で、「南無大師遍照金剛」と唱えていらっしゃいました。それから主人の菅笠をかぶって頭をさすり、「ボケませんように、ボケませんように」とつぶやきます。あさってには、息子さん一家がお盆休みでやって来るけど、今はそうめんぐらいしかなくて申し訳ないと、しきりに謝っていましたが、次から次へと飲み物、食べ物を出されて、結局、私たちは全部食べきれませんでした。おばあちゃん、残してごめんなさいね。
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私がカメラを出すと、「こんな格好だから写さないで」と言うので、「おばあちゃんは写しませんよ」と言いながら、しっかり写してしまいました。重ね重ねごめんなさい(笑)。それにしても、写真は写すなと言いながら、急いで鏡の前に行って髪を整えるあたり、やっぱりいくつになっても女なんだなぁと、とても可愛らしく思ったものです。そしていよいよ、すぐそこに見えていた仏木寺にお参りです。高田さんのおばあちゃんとの約束通り、おばあちゃんの代わりに鐘を二つ続けて打ちました。この鐘の音を聞いたら、お寺の方を向いて拝むと言っていたので、特に大きな音で鳴らし、私たちも一緒に丁寧に手を合わせました。今回の旅は、特にいただいたお接待がとても印象深く、このようにお接待をいただく方の分までお参りしているのだと思うと、いい加減なお参りは決してできないなぁ、と思います。だからこそ、自然と心をこめてお参りをするようになってくるのでしょうね。
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 この日は峠の展望台で一泊、山の上だから少しは涼しくて、よく眠れるのではないかと思っていましたが、とんでもない! 一台のスポーツカーがやってきてドリフト(キュルキュルとタイヤの音を鳴らして、お尻を振りながら走ることです)の練習を始めました。展望台の下が、ちょうど車道のヘアピンカーブに囲まれていますので、車の音が坂道を上ってきて、その後下って行くまで、ずーっとうるさいのです。ほとんど一晩中、私たちのテントのまわりを、その車がグルグル回っているようでした。今さら場所をかえる訳にもいかないし、すっかり睡眠不足になってしまいました。
「本当にもう、車なんかこの世から…」とまた言いたくなってしまいますね。確かに車は便利なもので、このお遍路でも四国に来るまでは車に乗ってきます。日々の生活でも、公共の交通機関に犬を乗せることは難しいので、どうしても歩いていけない距離になると、車を使うことになります。それでも敢えて言いますが、今や車の事故で亡くなる人は年間1万人です(※注 2000年当時は9千名を越えていましたが、2008年は5千名強でした)。いや正確には、24時間以内に亡くなった人だけがカウントされていますので、もっと実際は多いでしょう。毎年そのぐらいの数の人が、きちんと決められたように亡くなっているのです。誰も自分がその1万人に入るなどとは夢にも思っていないのに、交通事故でひどい目に遭ってしまう人が、確かに大勢いるのです。もうそろそろ本気で、車を減らす工夫をしなければならないのではないでしょうか。そして何より、車の運転が便利で簡単になったのは良くなかったのではないでしょうか。不便があるからこそ、人間の身体は工夫を重ねて進化して来たのです。これほど便利な世の中になれば、もう人類はあらゆる機能を退化させていくしか道はないと思うのです。うーん、車の騒音から、人類の未来を占ってしまうのも、お遍路の旅ならではです。
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 地球環境にとって自動車は敵! と分かっているのに、もはや使わずにはいられない時代…まして自動車産業に身を置き、お世話になっている私たち。本当に考えれば考えるほど辛い立場なのですが、ひとまず翌日は、43番明石寺(みょうせきじ)をお参りして、打ち止めにすることにしました。それからは、ちょっと無理をして暗くなるまで大洲の肱川を目指し歩き続けました。暗くなった車道では、以前、牟岐の警察署でお接待いただいた反射テープがとても活躍してくれて…
 あら? そもそもなぜ、肱川まで無理をして歩かなければならなかったのかしら? それは次回のお遍路の時、車をここに置いて出発できるから。なーんだ、最後の最後は結局、車の都合で、がんばって歩かなければならなくなったんですねー。それを思うと、またちょっと複雑な気持ちにもなりますが…こういう現実も受け止めながら、私たちはまた、忙しい日常世界へと戻っていったのでした。(2002年・夏)
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「e犬連れへんろ(後編)」へつづく

by inuzure | 2014-12-17 18:46 | ■連載シリーズ | Trackback | Comments(0)
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